脱炭素社会実現に向けた「系統用蓄電池」の重要性とは?
仕組み、役割、導入事例を解説!
脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入が進んでいます。しかし、太陽光発電や風力発電は天候に左右されるため、安定した電力供給が難しいという課題があります。
そこで重要なのが「系統用蓄電池」です。
系統用蓄電池は、大規模な蓄電池を電力網に接続し、必要に応じて電気を蓄えたり供給したりすることで、電力の安定供給を支える技術です。
今回は、この技術がどのように働くのか、その仕組みや役割、導入事例について詳しく解説します。
系統用蓄電池は、脱炭素社会実現に向けた重要な技術であり、電力の安定供給を支えるための大切な柱となります。今後、この技術への注目がますます高まることでしょう。
ページ目次
電力の安定供給を支える!系統用蓄電池の仕組みとは?

系統用蓄電池とは、発電所や変電所などに設置され、電力系統に接続して大規模な電力を蓄えたり放出したりできる蓄電池のことです。
ここでいう「大規模」とは、数千世帯分の電力を一時的に貯めたり供給したりできるレベルのこと。たとえば、10MWの蓄電池なら約3,000~4,000世帯の1時間分の電力をカバーできます。
電力系統は、発電所から家庭や企業まで電力を届けるネットワークですが、電力の需給バランスが常に保たれている必要があります。
系統用蓄電池は、電力が余っているときに充電し、不足したときに放電することで、このバランスを調整し、電力の安定供給に貢献します。
電力を守る!系統用蓄電池の重要な役割

系統用蓄電池には、大きく分けて4つの重要な役割があります。
重要な役割 ① 電力の安定供給
太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、天候によって発電量が変動します。晴れた日は発電量が多く、曇りや風が弱い日は少なくなります。
この不安定さを補うのが系統用蓄電池です。発電量が多いときに電気をためておき、足りないときに放電することで、安定した電力供給を支えます。
重要な役割 ② 再生可能エネルギーの有効活用
電気は基本的に作った分だけ消費する必要があります。そのため、発電量が需要を上回ると、せっかく作った電気を無駄にしてしまうことがあります。
系統用蓄電池があれば、この余った電気をためておき、必要なときに使えるので、再生可能エネルギーを最大限に活用できます。
重要な役割 ③ 電力系統の安定化
電力系統は、電気の周波数や電圧が一定に保たれていないと、機器の故障や大規模な停電につながることがあります。
系統用蓄電池は、電気の供給量を細かく調整し、周波数や電圧を安定させる役割も担っています。
重要な役割 ④ 停電時の復旧サポート(ブラックスタート)
大きな災害や事故で広範囲の停電が発生した場合、発電所を再稼働させるためにも電力が必要になります。
通常の発電所は、完全に電気がない状態では動かせないため、まず初めに動かせる電源が必要です。
系統用蓄電池は、こうした「ブラックスタート」と呼ばれる復旧作業を支える電源としても活用されます。
このように、系統用蓄電池は、電力の安定供給だけでなく、再生可能エネルギーの効率的な活用や停電時の復旧支援など、さまざまな場面で重要な役割を果たしています。
用途で変わる!系統用蓄電池の種類と特徴

系統用蓄電池の分野では、NAS電池(ナトリウム硫黄電池)とレドックスフロー電池が主流となっています。
これらの電池はそれぞれ異なる特徴を持ち、用途に応じて使い分けられています。しかし、最近ではリチウムイオン電池の進化により、系統用としての採用も増加しています。
今回は、それぞれの電池の特徴と、どのような用途に適しているのかを見ていきましょう。
NAS電池(ナトリウム硫黄電池)の特徴と用途

画像元:日本ガイシ ホームページ
NAS電池は、日本ガイシが開発した高いエネルギー密度と長寿命を誇る蓄電池で、大規模なエネルギー貯蔵システムに多く利用されています。
ナトリウム(Na)を負極、硫黄(S)を正極に使い、これらの化学反応を利用して充放電を行います。エネルギー密度が高いため、同じ容量の鉛蓄電池と比べてコンパクトに設置できます。
特に、電力系統におけるピークシフト※1や電力安定化、再生可能エネルギーの調整、電力コストの削減や環境負荷の低減にも貢献します。
NAS電池は、安全性にも配慮されており、国際的な認証を取得しています。さらに、遠隔監視システムを備えており、運用時の管理負担を軽減する設計になっています。
長寿命で信頼性も高いため、産業用や大規模なエネルギー貯蔵に適した電池として注目されています。
※1 ピークシフトとは、電力需要が高いピーク時に電力消費を抑え、低いオフピーク時に電力を使用することです。これにより、電力料金の削減や電力供給の安定化が図れます。
レドックスフロー電池の特徴と用途

画像元:住友電工 ホームページ
レドックスフロー電池(RFB)は、住友電気工業株式会社が提供している、電解液の酸化還元反応を利用して電気を蓄える蓄電池です。
タンクに貯めた電解液をポンプで循環させ、イオン交換膜を介して充放電を行う仕組みになっています。
最大の特長は、安全性の高さと長寿命であることです。電解液が水溶液のため、リチウムイオン電池のような発火リスクがなく、20年以上の長期間にわたって使用できるとされています。
また、容量の増加が容易で、電力会社の定置型蓄電設備として適しています。一方で、エネルギー密度が低いため、同じサイズのリチウムイオン電池と比べると蓄えられる電力が少なくなります。
また、電解液には強酸性の硫酸バナジウムが使われるため、液漏れ対策が必要です。さらに、バナジウムは産出国が限られており、供給が不安定な点も課題とされています。
近年では、再生可能エネルギーの普及に伴い、長時間の電力貯蔵が求められる中で再び注目を集めています。新しい活物質の研究も進んでおり、より高性能で安定したRFBの開発が期待されています。
リチウムイオン電池の進化と系統用採用の増加

リチウムイオン電池は、従来は主に家庭用や小規模な商業用途で利用されていましたが、近年その性能が大きく向上し、系統用蓄電池としての採用が増加しています。
特に、エネルギー効率が高く、充放電が迅速で、比較的コンパクトなサイズが特徴のリチウムイオン電池は、家庭用や小規模商業用途だけでなく、都市部のエネルギー供給やピークシフトにも利用されてきています。
また、リチウムイオン電池を活用したバーチャル・パワー・プラント(VPP)※2による電力調整にも活用されており、これによりエネルギーの柔軟な運用が可能になります。
とはいえ、NAS電池やレドックスフロー電池のように、長期的なエネルギー貯蔵に特化した用途には適していないため、用途に応じた選択が求められるのは事実です。
※2 VPPとは、複数の分散型電力リソース(家庭用蓄電池や小型発電設備など)を一つの「仮想的な発電所」として管理・運用する仕組みです。
これにより、需要と供給を柔軟に調整し、電力系統の安定性向上に貢献します。
リチウムイオン電池はその高効率な充放電性能によって、このVPPの核となる技術として活用されています。
系統用蓄電池の導入事例

再生可能エネルギーの利用拡大とともに、電力網の安定運用がますます重要になっています。これに対応するため、系統用蓄電池は重要な役割を果たしており、多くの電力会社が導入を進めています。
ここでは、国内外の事例を通じて、系統用蓄電池がどのように活用され、電力供給の信頼性向上に貢献しているのかを紹介します。
北海道電力におけるレドックスフロー電池を使った実証実験
北海道電力は、再生可能エネルギーの導入が進む中、電力系統に生じる出力変動を抑えるため、2015年12月に南早来変電所に住友電気工業製のレドックスフロー電池(出力1万5000kW・容量6万kWh)を設置し、実証実験を実施しました。
この蓄電池は、充放電サイクルの寿命が長く、出力変動をスムーズに調整できる特徴を持っています。実験では、再エネ発電の急激な変動があっても、蓄電池を使って電力の平滑化ができることが確認されました。
この成果により、再エネの受け入れ拡大が進むとともに、系統に接続される風力発電の規模拡大に貢献することが期待されています。
北海道電力は、今後も再エネ連系を進めるため、同様の技術を活用した運用をさらに進めていく予定です。
南オーストラリア州(SA州)の系統用蓄電池導入事例
南オーストラリア州(SA州)は、再生可能エネルギーの導入を積極的に進め、現在では電力の約70%を風力と太陽光でまかなっています。
しかし、天候による発電量の変動や電力の安定供給が課題となり、系統用蓄電池の導入が進められました。
代表的な事例が、テスラとネオエン社が設置した「Hornsdale Power Reserveホーンズデール・パワーリザーブ」です。
これは世界最大級の蓄電池で、電力の需給調整や周波数調整(FCAS)の役割を果たし、電力網の安定化に大きく貢献しました。
導入後は、電力コストの削減や停電リスクの低減にもつながっています。
さらに、一般家庭の蓄電池を活用するVPP(仮想発電所)の取り組みも進められ、分散型の電力供給システムが構築されつつあります。
英国の系統用蓄電池導入事例
英国では、再生可能エネルギーの大量導入を支えるため、蓄電池を活用した電力市場設計が進められています。
特に、需給調整市場で「同時入札」が認められ、蓄電池が複数の市場に同時にサービスを提供することが可能になりました。これにより、蓄電池の導入量は急増し、2022年には約1.93GWに達しました。
また、英国では蓄電池が24時間365日対応可能な形で運用されており、必要な時に即応できる体制が整えられています。
長期契約を結ぶことで、事業者は安定的な収入を得ることができ、より効率的な電力供給が実現されています。
さらに、カーボンニュートラルを目指して、長周期の系統用蓄電池の導入が急務となっており、収入保証制度も検討されています。
2024年、系統用蓄電池の導入状況

最近、系統用蓄電池の接続検討や接続契約の件数が急激に増えてきています。直近1年でその数は約3倍に達しており、これからさらに導入が進むと予測されています。

系統用蓄電池、2030年の国内導入見通しは?
2030年には、国内で導入される系統用蓄電池の容量が約14.1~23.8GWhに達すると予測されています。この容量が導入されることで、電力の安定供給に大きな影響を与えることが期待されています。
GWh(ギガワット時)ってどのくらい?
GWh(ギガワット時)は電力の量を表す単位です。1GWhは100万kWh(キロワット時)に相当し、1kWhは一般家庭が1時間で使う電力量にあたります。
例えば、14.1GWhは一般家庭約1410万世帯が1時間で使う電力量に相当し、23.8GWhは約2380万世帯分にあたります。
これだけの容量が蓄電池に貯められることで、非常に大規模な電力供給が可能になります。
世界規模で進む系統用蓄電池導入とその影響
系統用蓄電池の導入が進むことで、再生可能エネルギーの発電量の変動を調整するための重要な手段となります。
再生可能エネルギーは天候や時間帯により発電量が大きく変動しますが、蓄電池はその余剰電力を貯めておくことができ、必要なときに供給することが可能です。この仕組みによって、電力供給の安定性が高まり、エネルギーの効率的な利用が実現します。
世界全体での蓄電池導入の加速も進んでおり、エネルギー貯蔵能力は2030年までに現在の6倍に増加すると予測されています。
この増加によって、系統用蓄電池はより一層重要な役割を果たし、脱炭素社会に向けた世界的な取り組みに貢献することが期待されています。
系統用蓄電池導入を促進する取り組み

日本がカーボンニュートラルを目指す中で、系統用蓄電池の導入はますます重要な課題となっています。
再生可能エネルギーの普及とともに、電力の安定供給を支えるための取り組みが進められています。
ここでは、政府や関連機関が進めている系統用蓄電池の導入を促進する取り組みをご紹介します。
系統用蓄電池導入支援事業(経済産業省)
2021年度から、経済産業省は系統用蓄電池の導入を支援する事業を実施しています。この事業では、導入費用の一部補助や、手続きの簡素化が行われています。
これにより、再生可能エネルギーの導入拡大と電力系統の安定化が進められています。
電気事業法改正(2022年)
2022年に電気事業法が改正され、1万kW以上の系統用蓄電池からの放電事業は発電事業と位置づけられることになりました。
この改正により、系統用蓄電池の役割がより明確になり、導入が進むことが期待されています。
長期脱炭素電源オークション(2023年度)
2023年度に開催された長期脱炭素電源オークションでは、系統用蓄電池も支援対象として参加し、109.2万kW分の電力供給契約が落札されました。
このオークションにより、系統用蓄電池は安定した収入を得ることができ、さらに導入が進むことが見込まれています。
まとめ:2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)に向けた系統用蓄電池の役割

日本は2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーの普及を積極的に進めています。
その中で、発電の変動を吸収し、電力の安定供給を支える系統用蓄電池の重要性は一層高まっています。
特に、蓄電池を活用した新たなビジネスモデルが登場し、技術開発が進展しています。コスト、寿命、安全性といった課題に対する解決策も日々模索され、今後さらに進化が期待される分野です。
脱炭素社会の実現に向けて、系統用蓄電池の進化は不可欠です。再生可能エネルギーとの相乗効果を生み出し、未来の電力供給を支える鍵となるでしょう。

記事監修:電池バンク編集部
過去7千件を超える施工実績を有し、
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太陽光・蓄電池・V2H等のお役立ち情報を発信しています。
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